演技する自我状態(2003/5/10まとめ)

皆さんの周りにもいるかも知れませんが、何を言っても「ええ、そうですね」「私もそう思います」というように、相手の言葉を肯定するような態度しか取らない人がいます。これは、交流分析ではAC(順応した子供)と呼ばれる自我状態で、相手に合わせよう合わせようとする時の反応です。
誰だって、気に入られたい相手と話す時や、怒られたくない相手と話す時には、相手に合わせるという事はあります。

しかし、クライエントさんの中には、このAC(順応した子供)の働きが極端に強くて、いつでも自分の事より人の事を優先するので、自分はくたくたになってしまってバランスがすっかり取れなくなっている人がいます。

AC(順応した子供)で考える事は、【今この人は私に何を望んでいるんだろう?】【どうすれば拒否されないか】【逆らわないようにして、この人の機嫌を損ねないようにしよう】【今、私がこう言ったら、この人はどんな顔をするか?どう思うか?】というよう事です。つまりその人がAC(順応した子供)の状態でばかり考えているとすれば、自分の本心や本当の考えとは別に、相手に合わせよう、合わせようとする事ばかりなのです。どんなに疲れてしまうか、想像できるでしょう?

このAC(順応した子供)を別名『演技する自我状態』と呼んだりもします。AC(順応した子供)の自我状態が強く働く傾向のある人は、自分よりも人に価値があり、自分で考えることよりも相手の考えることに価値があると思っています。だから、相手の機嫌を損ねないよう、一生懸命に、演技しています。演技と言いますが、本人には無意識です。


実はこういうタイプの人は、どこにでもいるのですが、皆さん、このタイプの人はどんな性格で、どんな雰囲気だと想像しますか?多分、大人しくて消極的な控えめな人を想像するのではないでしょうか。

けれど、実際には大人しそうなタイプだけではなく、人を笑わせてばかりいるお笑い系にもなるし、気の強いリーダータイプの人間のふりもできます。女らしく振る舞うとか、強くてワンマンであるとか、ヒステリー気性に見えるとか、ありとあらゆるタイプの人間になりきって生きていますが、計算でそうしているのではありません。このAC主導型の人は、心の深い部分で、そうしないと人から受け入れられない、と思い込んでいるのです。本来の自分とは全く一致しないので、本人は非常に疲労しています。しかしそれでも、人目があるかぎり、人に合わせるよう自分を抑えています。

このようなタイプのクライエントさんが相手の時、私たちカウンセラーはとても気をつけています。もし私の言葉に誘導する要素があれば、この人にはすぐに効き目が現れます。

たとえば、私がこのタイプの人と一緒に食事をしている時、格別美味しいものでもないのに、『これは美味しいと思いませんか?』と聞けば、返ってくるのは必ず『ええ、とても美味しいですね』という肯定の答えです。逆に、美味しい料理であっても、私が『これはどうもまずいと思うんですが、あなたはどうですか?』とわざと聞けば、この人は『ええ、私も美味しくないと思います』とか『私のも、味付けが悪いみたいです』『火の通りがイマイチですね』というような答えをします。

このように、このタイプの人は自分が感じた本当の事『この料理は美味しい』という感じよりも、相手(私)の感じた事を大事にしようとします。ありとあらゆる事で、相手の感じたこと、相手の考えた事、相手の行動を優先してしまい、自分の感じた事や考えた事を正直に話さ(せ)ないのです。もう、何が自分の感じた事なのかわからなくなってしまっているくらいの人もいます。

何しろ、演技する自我状態と呼ばれるくらいですから、時にはカウンセラーさえ騙されてしまう完ぺきな演技ができるのが、このタイプのクライエントさんです。

誰でも、少しくらい相手に合わせて機嫌を取ろうとか、気に障る事を避けたいという時はあります。でも、どうでしょう、それを24時間、人目がある限り続けているとしたら。それは、とてもとても苦しいのです。

もし、いつも元気で快活なお友達が、しょんぼりしていたら、『どうしたの?あなたらしくないね』なんて言わないであげて下さい。これは『元気で快活なあなたでいて欲しい』という押し付けです。その人は、普段元気で快活な演技を続けている人かも知れないし、そうでなくても誰にだってしょんぼりしてしまう時はあります。それを受け入れてあげるのが本当の思いやりというものです。

時々私たちは、『こういう自分でありたい』と願うあまり、また『人にもっともっと好かれたい』と思うあまり、何かになろうとします。良い妻、良い夫、いい人、優しい人、強い人、まじめな人、堅実な人、素敵な女性、人が憧れてくれるほど魅力溢れる人…なりたいものはたくさんありますね。

でも、無理に何かになろうとする時、私たちの心の中ではAC(順応した子供)が活躍します。それは、本当の自分の気持ちを抑えてしまう働きをします。だから、私たちは心のバランスをとるために、時々は立ち止まって、あえて自分にまっすぐ聞いてあげないといけません。『私はそれを、本当に、したいの?』あなたをその時動かしているのがAC(順応した子供)なら、ACはこう答えます。『だってこれをしないといけないから』『これをしないとみんなが受け入れてくれない』そしたら、もう一度別の自分に訊ねて下さい。『本当は、どうしたいの?』もし、ここで『本当はこんな事、したくない』『本当はもっとこうしたい』という声が聞こえたら、それはFC(自由な子供)の声です。この声に従うと、とても気持ちが楽になります。どうしてもAC(順応した子供)の声しか聞こえないという時、あなたの心はバランスを崩しています。


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