思い残し症候群(2002/2/12まとめ)

最近でもテレビで取り上げられているので、ご存知の方もいらっしゃるかも知れません。これは数年前に 人間行動学者の岩月謙司助教授(香川大学)が提唱した新しい学説で、子供時代に、親から愛情を欲しいだけもらえなかったという気持ちが強く残っている為に、大人になってからも社会生活にいろんな支障をきたしてしまうというものです。確かに親にああして欲しかった、こうして欲しかったという思いを残している…思い残し症候群というのは分かりやすいネーミングですね。

岩月助教授は、この思い残しを、子供時代を思う存分にやり直す事(育て直し)で癒すという心理療法を実践されています。

たとえばクライエントが、ほ乳瓶でミルクを飲ませて欲しいと言えば父親になって抱いて飲ませてやり、おしめをして欲しいと望めばおしめをして上げるというものです。クライエントのやりたい事はほぼすべて叶えてあげるべく、体は大きくなったクライエントでも、おんぶと言われればおんぶ、だっこといわれれば抱っこしてあげます。行きたいという場所へ連れて行き、親として接し、子供時代に叶えられなかった願望を実際の行動ですべて実現させて行きます。

文字通り、数ヶ月から数年をかけて、育て直しを行うのです。クライエントが、願望を実際に体験できるという点では、素晴らしい療法だと思いました。

その療法は、私が行うものと、「幼い頃の満たされていない気持ち、感情を処理する」という点で大きく共通性があると思います。

だだ、実際に行きたいところへ連れて行くという事までやる方法は、受け入れる側の都合から考えるに、施術して差し上げられる方の数に、極めて厳しい限界があります。同時に、この施術を受けたいと思っても受けられないクライエントが、かなりの数に上っていることだろうとも思いました。

もちろん、カウンセリングや心理療法はそもそも「割の合わない」ものと言えるのですが、一人のクライエントにかける絶対時間を考えると、いったい何人のクライエントを受け入れられるだろうかと考え込んでしまいました。

私の処に、もし同じように「育て直しを受けたい」とおっしゃる方がいらして、もし私がそれをお受けしたら、いったい、他のクライエントを何人断って時間を作らなければならないだろうか、と思ったのです。

テレビのドキュメンタリーで拝見しても、それはそれは施術者である岩月さんに家族を含め大変な負担のある事で、私生活を投げ打ってクライエント(相談者)に接していらっしゃいます。クライエントは育て直してくれた岩月夫妻を「お父さん」「お母さん」と呼ぶまでに慕い、深い思い入れを持つようになります。この点は少し私には違和感を残しました。クライエントとの関り方が、何らかの違和感を生じているようです。

私の行う心理療法は、クライエントの自律性の確立を目的にしています。また、私のカウンセリングは「クライエントとカウンセラーは完全に対等である」という立場で行っています。

大変素晴らしい療法であると感動しながらも、クライエントが施術者に「癒してもらいたい」という依頼心を強化してしまう可能性がある点は気掛かりです。依頼心が起こると、クライエントとカウンセラーは対等ではなくなってしまいます。加えて、施術の現実面を考えると、同じ方法を用いてカウンセリングをする事は、なかなか困難だなあというのが最終的な所感です。

けれど、クライエントに効果がある事は容易に予測できますので、何とか部分的にでも導入できないかと考えました。

結果、自分自身の育て直しイメージというのは活用できると思います。クライエントが希望するなら、是非私の処でも取り入れてみたいワークだと思いました。

やりたいことを言葉で吐き出せる事は、心の健康を取り戻すためにはとても重要な事だからです。「おしめをして欲しい」と若い女性のクライエントが男性である助教授に言うまでには、とてつもない大きな信頼と同時に、自己欲求の開放が必要です。それが言えた時点で、彼女の心は癒され始めていると言えます。

クライエントから自己欲求の開放を引きだすには、カウンセラーが信頼されることが必須条件です。この事をあらためて心に刻んだ今日この頃でした。

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